終章

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「済まぬ。蒼月」 差し出した盆をあわてて引っ込める。 「出仕はお断りいたしたのか」 解いた包みを結び直そうとする伊織の手に、白い手が重ねられた。 驚き顔を上げると、緩やかに微笑む蒼月の端正な顔がすぐ傍にあった。 「暁の女御さまに御推挙頂き、帝より勅命されたのだ。  然も女御さまの計らいで、面を付けたままの参内も御許可いただけたしな。  如何な俺でもそうまでされては、無下に出来まい」 「…では」 蒼月はこくりと頷いた。 「ああ、謹んでお受けした。  内裏に参れば、お前と顔を合わせる機会も増えるであろうし」 「そうか!」 再び笑顔を取り戻した伊織を見ながら苦笑する。 「まったく …   (つくづく)変わった男だな。お前は。  他人事だというのに、何故その様に一喜一憂するのだ?」 「それは、当然であろう。俺たちは友なのだから」 「友…か……」 蒼月は鮮やかな紫の瞳を瞬かせ、はにかむ様な笑みを浮かべた。 「良いものだな…友というのは」 「何を今更。お前こそ変わった男だ」 小首を傾げる伊織を見遣りながら、その手から盆を取り上げる。 「という訳で、此れは有り難く戴こう。  今、緋扇に祝いの馳走を拵えさせる」 「酒も用意してあるぞ 」 伊織は瓢を持ち上げて見せた。 「おお、其れは手回しの良いことだ」 蒼月がにやりと笑う。 「では、朝まで祝宴といくか」 「……え?朝…まで……?」 一瞬で顔色を無くした伊織に向かい意地悪く云い放つ。 「何だ?友の誘いを断るのか?」 「あ…嫌。そういう訳では……。  しかしな……」 蒼月の酒豪ぶりは先刻承知。 とても伊織が付き合える度合いではない。 困りきったように眉尻を下げる伊織を見ながら ぷっと吹き出すと、そのまま軽やかな笑い声を立てた。 「な……何が可笑しい!」 顔を真っ赤にして声を荒げる様に、遂には腹を抱え笑い興ずる始末。 「からかっておるのか」 不貞腐れた表情を見せた伊織も、直ぐに相好を崩す。 穏やかな秋の陽が、愉しげなふたりの上に柔らかく降り注いだ。               完 長らくお付き合い頂き、ありがとう御座いました!
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