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雨は苦手だ。僕にとって嫌な記憶を呼び起こす。とくに、ザァザァと中途半端に音を響かせて、主張してくるかのような雨にはうんざりする。その音は彼──ブルーマンの姿を脳裏に浮かばせる、呼び鈴のようなものだからだ。
ブルーマンは、僕の故郷である町に住んでいた有名人だった。
青い服、青いズボン、青い上着。さらには靴やベルト、持ち物にいたるまで必ず青づくしという、ちょっと変わった嗜好を持つ男性だった。年齢はおそらく二十代半ば辺り。良とは言い難いごく平凡な容姿だが、高身長なこともあり、その妙な出で立ちが町中から彼を浮かせていた。水彩画のキャンパスに溶け込められない油絵の具のように、彼はあの町で目立っていたのだ。
そんな彼は、当時まだ小学校五年生だった僕たちの、格好のウワサ対象になった。当たり前だ。子どもは異質なものに興味を持ち、好奇心を隠さない。
ブルーマン、と誰が呼び始めたかは知らないあだ名を口にし、根拠のない彼についてのウワサを語る。
「ブルーマンはイカれてて、病院に通っているらしい」
「変態的な青マニアで、家の中も真っ青だって」
「実は殺人鬼で、家には死体がゴロゴロ転がっている」
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