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地蔵のように固まった僕に小さく笑い、彼は傘を僕の足元に置いて去って行った。見れば遠くで、折りたたみ傘を鞄から取り出し開いていた。予備の傘を持っていたのだ。しかも、それも青。さすがはブルーマン。
それなら遠慮はいらないかな、と彼の姿が消えてから傘を手に取った。濃紺の、大人が使う立派なやつだ。しかし。
「あれ?」
その傘に不釣り合いなタグが、ひとつ揺らめいていた。てるてる坊主のように傘の骨組みの根元で揺れるそれを見てみれば、そこにはこの近所と思われる住所と、人の名前が書かれていた。
名前はもう、平凡過ぎて忘れてしまった。ただそれが、ブルーマンの本名なんだと勘づいて、少々ガッカリした心地になった。まるで手品師の上着の裾から、ネタの小道具が見えてしまったような、そんな感覚。ブルーマンがただの人間だと突きつけられて、正直面白くない気分になる。
しかし同時に、大きなチャンスを掴んでしまったぞ、という気分にもなった。さながらシャーロック・ホームズに自分がなったかのように、タグをブルーマンの謎を紐解くアイテムとして指先で遊んだ。ブルーマンの正体は──ここにある。
ブルーマンに出会ったときは、友人たちにすぐに自慢してやろうと考えていたが、タグを見てまたそれを改めた。
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