キャンプファイアー

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「そうなんです。今回皆さんにやって頂いた『ギャンブルへの別れの手紙を書く』というプログラムは今までの人生を振り返るものなので、かなりの痛みを伴います。でもここにいる皆さんは過去に向き合って、下手なキレイゴトやうわべだけの反省の弁ではなく、魂の底から手紙を書いてくれました」  圭一の目にはうっすらと涙が浮かんでおり、その圭一にスッとハンカチを差し出す基博のシルエットを炎が照らしている。そんな2人の姿を幸男は優しい目つきで見つめていた。3人とも形は違えどギャンブル依存症のために大切なものを失ってきた経験がある。他者の感情に対してきっと思うところがあるのだろう。 「では今回の1泊キャンプの最後のプログラムです。皆さん、火を囲んでください」  涼介に促されて3人はキャンプファイアーを囲む。 「今回書いてもらったことは残念ながらもう過去のこと。変えられないことです。でも、未来を変えることはできます。角度でいうとほんの0.1度かそのくらいでも、少しずつ変えていけます。ですから、過去の自分を捨ててどう変わりたいか、一言ずつ話して下さい。今日ここで、『過去』と決別しましょう」  涼介がそう言うと、3人がそれぞれ手紙を右手に持つ。 「私は、パチスロから自由になりたい!」 「俺は、別れた子どもと会っても恥ずかしくないような大人になりたい!」 「僕はただただ、真っ正直に生きたい!」  それぞれ3人はそう叫ぶと、涼介が口を開いた。 「では皆で願いを込めて、過去と決別です」  涼介がそう宣言すると、3人は皆、各方向から自分の書いた手紙を投げ入れる。  投げ入れられた手紙は灰となり、火の粉となり、煙となる。天へと登っていくそれらを3人は穏やかな表情で見送る。  雲ひとつない夜空に輝く夏の大三角形は、そんな彼らを優しく見守っていた。 【終わり】
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