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それだけ言うと、菊水さんは静かに目を閉じて眠り始めたようだった。
「蓮香、桜里を鳥居まで送って行け。我は菊水についていたいからな」
「分かった。ほら行くぞ桜里」
鳥居に着いた所で、蓮香が俺の手をギュッと握る。
「菊水のこと悪く思わないでくれ。オレ達のことを考えて言ってくれてるんだ。それから…ひどいこと言ってごめん。手水で清めただろ?全然汚くない」
「蓮香…」
「オレ達は死んだ人間で、桜里と同じ世界にはいられない。オレと比良坂は菊水がいないと生きていけない…菊水の力で生前の姿が保てるんだ。でも…本当は生まれ変わってやり直したいなとか思ったりしてさ。まぁ、今はこの生活でいいんだけどな」
少し淋しそうな笑顔の蓮香を見て、ふと思い付いたことを口に出していた。
「蓮香の真名を教えて。生まれ変わった時に呼びかけたいから…」
「バーカ!……"ミチトシ"だよ…」
「分かった…それじゃなミチトシ」
蓮香と離れて、口に札をくわえ、左手に札を握って、決して振り向かないで階段を走り抜ける。
さよならは次に会う為の約束。
必ず会う為の最初で最後のさよなら。
泣きそうになる気持ちを押し殺してただただ走った。
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