薔薇と男

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あるところに、大変に薔薇を愛してやまない男がおりました。男は毎日、薔薇に愛の言葉を囁きながら、錻の如雨露で優しく水をかけてやります。その時に、小賢しい尺取虫がついていないか調べたり、土が乾いていないかも入念に調べていました。男は、ただの花好きや園芸屋ではありませんでした。野山に逞しく咲いている野ばらを見ても、花屋に売っている色とりどりの薔薇の花束を見ても、物好き達がこぞって見せ合いをしている、丁寧に育てられた薔薇を見ても、人並みに綺麗だな、と思うだけで、自分の隣に咲いている真紅の美しい彼女には、とても敵いません。薔薇は彼の妻だったのです。嵐が来れば大急ぎで鉢ごと家の中に入れ、日照りが続くようなら、日除けを作って炎天下の日差しから守ってあげるのでした。もし、何かの不注意で彼女が枯れてしまうような事があれば、男も悲しみのあまり、その後を追ってしまうでしょう。男は偶に、その事について考えてしまう事がありました。夜寝るために布団に入り、うとうととしていると不意に、明日目が覚めたら彼女が枯れてしまっていたらどうしよう、とか、夜中に目が覚めた時にもし、彼女が先に死んでしまったら、自分はこの先どう人
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