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生を歩んでいったらいいのだろう、とか。漆黒の影や宵闇に棲む魔物が、人間の良からぬ考えを煽って、増幅した不安を食べに来るような夜を、男は幾つも過ごしました。どうせ、こんな事を周りの人間や知人に話しても、頭がおかしい男の戯言だ、と相手にされない事でしょう。そんな事はこの男も分かりきっていましたし、彼女を花ではなく、人間と偽って相談したとしても、周りはそんな事をいちいち考えるなんて、阿呆だ、とか俺もそんな気持ちがわかるよ、という僅かで何の役にも立たない慰めが返ってくる事でしょう。男の世界には、もはや薔薇と自分しかいませんでしたし、他には何もいりませんでした。本当に、彼が望んでいることは、薔薇が少しでも長く生き永らえる事と、神に許される限り、その隣に自分がいる事だけでした。天上のただ一つの宝石のような朝日が昇るのを二人は幾つも見て、その宝石がダイヤモンドから、ルビーに変わったような夕焼けも何回も眺めました。男はそんな毎日が堪らなく愛おしく、そして真に幸せだったのです。
しかし、先に死んでしまったのは、男の方でした。その日の男は、とても良い肥料を手に入れて、一目散に家に帰っている途中でした。喜び
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