真夜中のベランダで

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 僕はビールを開けようとして、手を止めた。僕がビールを開ければ、パシュッと音が鳴る。一人だけビールを飲みながら、星を見るのはなんとなく気が引けた。壁を隔てた向こう側に人が立っている、と知ってしまうと、意外に存在を感じてしまうものらしい。  僕は足元に置いておいたもう一本のビールを取ると、そっと隣に差し出した。一瞬、戸惑ったような間が空いた。けれど僕が失敗したかな、と思うか思わないかのうちに、白い手がすいっと伸びてきて、ビールを受け取った。  ビールを受け取った方とは反対側の手が、手刀をきって(ありがとう)と示した。彼女は何も言わなかったけれど、それが正解のような気がして、僕は夜空を見上げて、パシュッとビールを開けた。  すると隣からガサガサと音がして、今度は僕の方に、柿ピーの小袋が差し出された。  なるほど。彼女も一杯やりながら、流れ星を見ようと思っていたらしい。  それから僕たちは、時折同じ流れ星を見つけては、「おっ」とか「あっ」とか言ったりした。僕はビールを飲んで、彼女がくれた柿ピーをポリポリ音を立てて食べた。  僕たちは、時々ベランダで会うようになった。会うといっても、顔は見えない。ただ壁を隔てて一緒にビールやサワーを飲むだけだ。壁越しにおつまみや飲み物を手渡したりして、一緒に飲む。何も話さない。     
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