真夜中のベランダで

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 次第に僕も彼女も、雨が降っていない日は、ベランダで過ごすひとときを楽しみにするようになっていたと思う。なぜなら、僕はコンビニで美味しそうなおつまみを見ると、二人分買うようになったし、彼女が差し出す飲み物も、新製品だったり少し珍しい銘柄のビールだったりしたから、きっと僕と同じ気持ちだったのだろうと思うからだ。    ある日、僕は彼女とは関係のない場所で、とてもひどく打ちのめされた。家に帰ってからも、自分が価値のない、出来ない奴のような気持ちが、僕を(さいな)んだ。あるいは僕をこんな思いにさせた相手を、心の中でおとしめたり、罵倒したりもした。  どうしようもなく涙が後から後から流れてきて、とてもベランダに出られるような状態ではなかった。  壁の薄いアパートだったから、隣の彼女は僕が泣いていることに気が付いたのだろう。彼女は家にいたけれど、いつも以上にとても静かだった。僕には彼女がベランダに出て行く気配がないのがありがたかった。  やがて涙もとまり、部屋の壁に寄りかかってぼんやりと床に座っていると、彼女が歩く音がした。  パタン、コトン、パタン、ジーッ。  この音はよく知っている。冷蔵庫を開ける音。そして電子レンジだ。なんで、今。  チン。  何だかバカにされているような音だ、と僕が思っていると、「アチチ」と彼女の声が聞こえた。  (脳天気なもんだな)と僕は心の中で、なんの罪もない彼女に八つ当たりした。  コン、コン、と彼女が壁を叩いた。そして歩く音がして、カラカラとガラス戸を開ける音がした。彼女がベランダに出たのだろう。     
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