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式場の奥に置かれている棺は、向こう側が透けて見えそうなほど白く、全面に施された波のような模様が照明を吸収して柔らかく光っていた。
実咲は葬儀場の一角にあるこの会場に入った時から、この光景が夢なのではないかという考えを引きずっている。静かに置かれているあの棺の中には、本当は何も入っていなくて、棺の左右に咲いている白い百合も全部幻の類だ。黒一色の服を着て座っている周りの人たちも、知っている顔もあるけれどよく似た別人で、みんな悲しそうな振りをしているだけなのだと、そう思いたかった。
クラスメートの璃子の訃報は、一昨日の夜に突然入った。塾の帰りに、駅のホームから線路へ落ちたらしかった。誰も事故の瞬間を見ていないし、田舎の電車の駅で防犯カメラが設置されていなかったので、原因はまだはっきりせず、警察が捜査を続けている。
璃子が亡くなったという実感は、正直まだ湧いていない。実咲は会場に並べられたパイプ椅子の一つに座り、葬式が進行していく様子をぼんやりと眺めていた。お坊さんが棺の前に座り、お経を唱え始めたところだった。
棺の奥に立てかけられている璃子の写真から、実咲は目を逸らせない。あれは多分中学校の卒業アルバムで使われる写真だ。璃子の背景がほんのり水色を帯びている。ちょうど二週間くらい前、学校に写真屋さんが来て撮っていった写真。アルバムより早く、このような形で使われるなんて、誰も予想していなかっただろう。
璃子の溌溂とした笑顔がじわっとぼやけ、途端にピントが合わなくなる。目が痛い。でも瞬きが出来ない。瞼を一旦閉じてしまうと、もう開けられなくなると思った。
その時だった。
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