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そこから、大きな鐘の音が三回こだますると皆は仕事に取り掛かるための準備へと向かった。
賑やかだった空間の外から、今度は忙しそうな声が響いてくる。
どこからか汽笛の音も聞こえてきて、ここが駅であることを思い出した。
あまりにもこの空間が食堂感があったけど、ここは生活空間などではなくて駅の休憩所だ。
皿を洗おうとしたけれど、その前に泡が弾けるようにお皿が消えた。
「これも魔法?」
「もちろん。さあ、俺達も行こうか」
そう言って立ち上がって、何か唱えると私の体をシャボン玉のような綺麗な膜が私を包んだ。
ふわっと香る花の匂いを肺に送り込んでいると、パチンと膜が割れた。
近くに合った壁掛けの鏡に映る自分の姿に、目を丸くした。
ボサボサだったであろう髪の毛も綺麗にセットアップされていて、ナチュラルメイクも施されている。
着ていた服はしわくちゃだったのに、クリーニングに出したかのように綺麗だ。
ま、魔法というのは人をダメにしそうなことまで出来てしまうのか……
現代社会を生きる私の生きる世界の人間達は、この魔法を見たら赤子のように泣き叫びながら欲することだろう。
こんなことが出来てもなお、働く人々がいるこの世界はやっぱりすごい。
「こんなことまで魔法使って出来ちゃうんですね」
「んーでもこの魔法を使うのなんて、1年に1回だよ」
「え……?」
こんな便利な魔法があっても、1年に1回しか使わないこの世界は一体どんな暮らしを送っているのか不思議でしょうがない。
「セイラスっていう1年に一度の神々を讃える祭りがあるんだ。その時に自分の魔力に感謝の気持ちを込めて使うんだ」
余程この世界の人は出来ているらしい。
その凄さに力強く頷くしかできなかった。
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