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窓口で切符二枚を購入したアルスと共に改札口を抜け、再び昨日訪れた駅のホームへと足を踏み入れた。
まだ朝の早い時間だと言うのに、ホームには人がわんさかいた。
「すごい人……」
「これから王都へ向かって行く人が多いんだ。田舎とは言っても、人が多いのが俺の住む街の特色なんだ」
人に揉まれそうになりながらも電車を待っていると、鐘の音が聞こえてきてホーム内に電車……ではなく汽車が入ってきた。
生まれて初めて見る汽車に心が弾んだ。
紺色の車体は綺麗に手入れしてあるのかピカピカだ。
中に乗るまでは、満員電車に乗り込むような息苦しいものではなく車掌さんが一人一人丁寧に切符を確認してから乗り込んでいく。
アルスと一緒に乗り込み、指定された席へと向かう。
「ここだね。窓側がいい?それとも通路側?」
「もちろん窓側で!」
子供のようにはしゃぐ私は遠慮せずに窓側を要望すると、アルスは笑って私を窓側の席に座らせてくれた。
するとゆっくりと走り出した汽車に、思わず声が出てしまった。
窓から見える景色がみるみるうちに変わっていく。
こんなに何かにワクワクドキドキしたのは、いつぶりだろうか。
素直に楽しんでる自分に笑ってしまう。
「何か面白いものでもあった?」
「久々のこのドキドキに対して素直に楽しんでる自分に笑っちゃったんです」
「窓から顔出しすぎて落ちないようにね」
子供を宥めるようなそんな言い方に少し恥ずかしくなりながらも、汽車の外をじっと眺めた。
そう言えばこの汽車は一体どこへ向かうんだろう。
落し物を探す旅とは言え、行く宛があるのだろうか。
「アルス、今日はどこへ向かってるの?」
「隣街。小さな街だけど、すごくいい場所なんだ」
自慢げに話すアルスも、どことなく楽しそうだ。
走る汽車とこれから待っている街に、私の心は弾んだ。
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