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道行く人が私の姿を見つける度に、手を振ったり笑顔を向けてくる。
市場の通りにたどり着けば、溢れかえる人々に私の存在はかき消されていく。
どこの露店も大繁盛していて、お店の人は大忙しだ。
そんな様子を眺めていると、ふと手に温もりを感じた。
「これ以上迷子にならないように、ね」
繋がれた右手を振りほどく理由もなく、むしろ安心感のあるアルスの手に私は力を込めた。
少し恥ずかしい気もしなくもないが、異世界にまで来て方向音痴でアルスに迷惑をかけるのは御免だ。
でも妙に身体が火照るのは、この密集して人が集まっているせいなのだろうか。
……その答えを知るのは、誰もいない。
身体の熱を逃がそうと必死になるけれど、アルスに繋がれた右手を見つめる度に熱くなっていくのが分かる。
彼氏も高校生の時以来いないものだから、男の人とこんな手を繋ぐことに不慣れな私はわざと周りに視線を泳がせて意識しないようにすることしかできなかった。
アルスに連れられてたどり着いた先は、大きな噴水が吹き上げる場所だった。
噴水を囲むようにそこにも小さな露店がいくつかあった。
「流石にあそこでの買い物は大変だから。ここならのんびりとして買い物できるよ」
「えっ、あ!はい!」
「カンナ?顔赤いよ?」
そう言って顔を覗き込んで来ようとするアルスに、私は慌ててアルスを引っ張って露店へと歩き出した。
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