観光地をお楽しみください

5/8
前へ
/62ページ
次へ
意識していなかった右手がまたしても熱くなる。 そんな私とは違って落ち着いているアルスは、はははと否定も肯定もせずに笑った。 「彼女とは観光に来ていて。思い出に一つ花をください」 「あら、そうだったのね。ならーーこの花なんてどうかしら?」 お姉さんが示したのは、光の加減で白にも青にも見える不思議な花だった。 見たこともない花だけれど、何故か懐かしく感じる。 じっとその花を見つめていると、横からアルスの視線を感じアルスを見た。 「……じゃあ、これ一つ貰おうか。あ、スデューテットにしてもらえるかな?」 「もちろん。100ベギールです。少々お待ちくださいね」 そう言いながら何か魔法をかけ始めたお姉さんを見つつ、アルスがお金を出す音にハッとした。 これは、まずいのではないか? 迷い込んできただけの人間に、宿まで提供して汽車にも乗せて、おまけに花を買うなど。 お金を返せるのなら全然いいのだが、残念ながらこちらの世界のお金は持ち合わせていない。 「アルス、その、お金って……」 「ん?大丈夫だよ、気を使わなくても。俺働いてる身だし。こんな体験もできないんだからさ、少しぐらいお金使わせてよ」 ごめんなさい、とその言葉が喉につっかえるがごくりと飲み込んだ。 気を使わせてはいけない、ここは別の言葉がふさわしい。 「その……ありがとうございます」 「うん。俺もそう言ってもらえて嬉しい」 そうこうしてるとお姉さんが先程の花をラッピングして……って、あれ?
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加