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大事なもの、それは一体何を指すんだろう。
財布は大事だから常に持ち歩いていたから無くしていないし、そこそこ大事なものと言ったら……大事なデータが入ったUSB程度だ。
考えれば考える程頭にモヤがかかっていくようで、私は一つため息を漏らした。
「カンナ……?具合でも悪い?」
心配そうなアルスの声に慌てて、首を振ってアルスを見ようとしたけれど、あまりの顔の近さに固まるしかできなかった。
「ア、アルスッ……」
「暗い顔はカンナには似合わない。どうか、君は笑っていて」
首に手を回されヒヤリと冷たいその感覚に、肩が跳ねた。
リン……と透き通るような音が小さく響いた。
距離を離していくアルスに、心臓のドキドキを抑えるのにそっと胸を掴もうとした。
だけどその前に首元から下がるネックレスの存在に気づいて、綺麗に光るさっきのあの花を触った。
「ラグレント。この時期の僅かな時にしか咲かない貴重な花なんだ」
「そうなんですか……すごく、なんか、見てると落ち着きます」
胸元で咲く花をそっと撫でると、しっとりとした感覚が伝わってきた。
「お守り」
「え?」
「帰る時のお守り。迷わないように」
「ふふ。ありがとうございます。大事にします」
そう答えると、そっと右手に温もりを感じた。
どこか苦しそうな、切なさそうな、そんな表情をするアルスに何故か心が締め付けられた。
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