20人が本棚に入れています
本棚に追加
「アルス……?」
「ちゃんと、帰れるように手助けするから。……安心して……ね」
今までなら顔を向けてくれるのに、今回はどこかとおくを見つめて言った。
どうしたのだろうと考えるよりも先に、アルスがゆっくりと立ち上がった。
「さて、と!探しに行こうか、カンナの落し物」
「は、はい」
「今更だけど、その敬語使うのなしね!なんか距離感を感じるからさ。年も近そうだし、畏まらなくてかいいよ?」
首を傾け、念を押すかのように言ってくるアルスはいつも通りだ。
ここでまた遠慮していくのもなんかもったいない気がして、私は一つ頷いた。
私もそっと立ちがり、吹き抜けていく風を感じながらアルスに引かれるようにして歩き出す。
次はどこへ行くのだろうと、ワクワクした心が出たその時だった。
ーーカラン……と、どこかで掠れた金属音が響いた。
その音に辺りを見渡すけれど、音が出たであろう物体は見当たらない。
「カンナ?」
アルスに呼ばれハッとする。
どうやら話しかけていたのを、全部右から左へ聞き流してしまったようだ。
「ごめん!聞いてなかった!」
「カンナ、もしや満腹で眠くなったな?」
「えっと……あはは!」
「誤魔化しが下手だなあ。よし!眠気覚ましに路面電車でも乗るか!」
キュッと強く握られた手にすごく安心感を覚えて、私も思わず握り返した。
何か感じたのは、気のせいだと言い聞かせて広場を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!