3 四月の約束

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「だから、とにかく友達になれるように頑張れ。で、絶対告白はしないと約束しろ。それを菜月が約束するなら、マナと仲良くなるために協力すると俺も約束する」 甲斐は私の顔を指さしたまま、キメ顔でそんなことを言い出した。 うーん。確かに恋愛においては甲斐の方が圧倒的に経験豊富だし、何よりマナと甲斐はもう三年の付き合いのはず。 甲斐の言う通りにするのがベストなのかもしれない。 「分かった。約束する。だから協力お願いします!」 「よし。合意だ。では誓約書の作成に入る」 は? 誓約書って何? と考えているうちに、甲斐はカバンから今日学校で配られたプリントを一枚取り出した。 そしてベンチに向かって何やら書きはじめた。 「できた。これに目を通してサインしろ。ハンコないだろ? そしたら拇印でいい」 ボ……イン。 呆気にとられつつも、そう言えば甲斐の両親は弁護士だったなと思い出した。 いや、だからって。 「ちょっと。そこまでする必要がどこに。おじさんたちに約束の時はこういうの書けって言われてんの?」 「いや? こういう誓約書を書かせるの、漫画で見ただけ」 弁護士の親関係ないんかい。と心の中で突っ込む。 「ほら。女に二言はないだろ。ならここに署名するんだな。これがないなら、俺は菜月に一切協力しない」 甲斐は「誓約書」と書いた、配布プリントの裏を私に突きつける。 「サインする気ないならなー。菜月が俺を利用してマナの情報得てたこととか、毎回マナを見に試合来てたこととか、うっかりマナに言ってしまうかもしれないなー」 「わーかったよ!」 私は甲斐からプリントを受け取り、「こういうのって脅迫て言うんじゃないのかしらね」とかブツブツ言いながら、誓約書にさっと目を通した。 こんなの、たいした意味ないでしょ。 甲斐からペンをひったくり、「持田菜月」と署名した。 「じゃ、次拇印ね」 と、甲斐はペンケースから赤の水性ペンを取り出すと、私の右手の親指の腹を塗りつぶしはじめた。 「甲斐! 待って待ってくすぐったいって! 何もここまでする必要ないでしょ」 と半分ヤケになって笑いながら言うと、甲斐も冗談ぽく笑っていたけど、親指を塗りたぐるその視線はとても真剣だった。 私は甲斐のその真剣さにどこか不安を感じながらも、言われるがままに名前の隣に親指を押し付けたのだった。
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