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「結婚して、別の場所に住んでいるわ。言わなかったっけ」
「はい」
「そっか」
美里とは、弘毅の姉だ。頼子が小学六年生のときに、弘毅たちは引っ越した。弘毅は中学三年生。美里は大学生で、ひとり暮らしをしていた。だからなのか、頼子はあまり美里のことを覚えていない。
「弘毅さんって、いつも晩御飯はひとりで食べているんですか?」
「近所のお手伝いに行って、そこで食べていることもあるし、自分で作って食べていることもあるわよ。あちこちで料理を教わってくるから、けっこう上手なのよ。もともと手先が器用だし、向いているのかもね」
「そうなんですか」
「そう。私より料理上手なのよねぇ、あの子」
「それで、生計を立てているんですか?」
「ん?」
「手伝いをして、それで生活費をもらっているのかなって」
仕事らしい仕事をしているとは思っていない頼子でも、アルバイト扱いできちんと給与の契約書を交わしている。都会の感覚では安価だが、勤務内容と照らし合わせると不満はない。しかしそれで生活ができるとは思えなかった。
(物価が安いとか、野菜は分けてもらえるとかもあるけど、それでもちょっと無理だよね)
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