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だいたい、弘毅がなんの手伝いをしているのか、頼子は知らない。いつも朝食の後に、どこそこに行って来ると言い置いて、ふらっと自転車や車で出かけていく。危険だったり特殊だったりするもので、一回あたりの手取りが高い仕事なのか。
気になりつつも、いままで聞くきっかけがつかめなかった。
「手伝いは無償よ。と言っても、それで野菜を分けてもらったり、こっちも助けてもらったりするから、お互い様ってことなんだけど。年寄りが多いから、若い男手って重宝されるのよね」
「それじゃあ、仕事はしていないんですか? 単なるなんでも屋ってことですか」
「してるわよ、仕事。部屋で」
「部屋で?」
「便利な世の中になったわよねぇ。いまはインターネットで、仕事のやり取りができるんだから」
ほこらし気な多美子に、そうなんですかと頼子はつぶやく。
(ネットで仕事のやり取りをしているなんて、すごい)
「どんな仕事、しているんですか」
「絵を描いているわ」
「絵?」
「そう。イラストレーターっていうの? あの子、昔から絵を描くのが好きだったから」
そうだったと頼子は思い出す。当時、好きだったアニメのキャラクターを、たくさん弘毅に書いてもらった。いくつかは無くしてしまったが、あれらはいまでも部屋の片隅に保存してある。
(好きなこと、得意なことを仕事にしたなんて、すごいなぁ)
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