116人が本棚に入れています
本棚に追加
忘れ物があっても買えばいいと思っていたが、多美子の車に乗ってここに来る間に見たのは、道の駅とその周辺に散らばっている飲食店だけだった。そこを過ぎてここに到着するまで、コンビニどころかスーパーすらも見当たらなかった。
(想像以上の田舎に来ちゃったんだなぁ)
やっぱり地味な格好をしてきてよかったかもと思い直した頼子は、化粧品を部屋の隅にある折り畳み式のちゃぶ台に乗せて階段を下りた。
「おばさん」
「あ。荷物、片付いた?」
「いえ、ええと」
「押入れの中、どうしていいのかわかんなかったんでしょ。クローゼットとは違うものね。ちょっと休憩したら、衣装ケースとか買いに行きましょう。お茶を淹れるから、適当に座って」
てきぱきと動きながらしゃべる多美子に、変わっていないなと頼子は安堵する。母親から、多美子のところへ行ってみなさいと言われたときは、おどろいたし緊張もしたけれど、昔とちっとも変わらない。
イスを引いてテーブルに着いた頼子は、台所をぐるりと見回した。
四人掛けのテーブルと、古めかしい重厚な食器棚。ちいさなテレビがチェストの上に乗っている。窓は大きく、緑に埋め尽くされた土地と空が見えた。頼子が入ってきたドアとは別の、開け放たれたガラスの障子の先には廊下があり、土間があって勝手口になっていた。土間の端には段ボールが置かれていて、葉野菜の先がチラリと姿を見せている。勝手口の向こうには、離れ屋の縁側が見えていた。
最初のコメントを投稿しよう!