116人が本棚に入れています
本棚に追加
「あんまり田舎なんで、びっくりしたんじゃない?」
「はい、いえ、あの……ちょっとだけ」
アハハと多美子は快活に笑った。
「気を使わなくてもいいのよ。コンビニも外灯もない、買い物をするには車が必須な田舎町なんて、都会育ちの頼子ちゃんにとったら、キャンプに来る場所みたいな感覚なんじゃない?」
ぎこちない笑顔になった頼子に、ほらねと多美子は得意そうに鼻を鳴らした。
「まあでも、だからこそ路子は私に預けようって考えたのかもね。不便だけど、のんびりしている土地だから。たっぷりと羽を伸ばして過ごしてちょうだい。遠慮なんて、しなくていいからね」
「はい。ありがとうございます」
出された紅茶に口をつけ、はつらつとした多美子の様子をじっとながめる。母の親友の多美子は十一年前に離婚をした後、いろいろあって田舎の一軒家を購入して移住をはじめた。どういう理由でここを選んだのか、母に聞いたら「町おこしの一環で、母子家庭を誘致する政策をしていたのよ」と答えられた。そのときは、ただ「ふうん」となんの感慨もなく受け止めたのだが――。
(それだけで、こんな田舎に引っ越しするかな?)
なんにもない場所に引っ越して、不便はないのだろうか。
(キッチンは、新しいけど)
最初のコメントを投稿しよう!