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いかにも農家の家といったたたずまいに驚いたが、システムキッチンがあるのならトイレも水洗だろうとホッとする。
(汲み取り式だったらって、ちょっと心配しちゃったけど平気そう)
お店が近所にないだけで、それ以外に不自由はないのかもしれない。
(スマホの電波もきていたし、欲しいものは通販で頼めばいいし)
そう考えると、民家の密集していない田舎の一軒家を、離婚してシングルマザーとなった多美子が選んだのも納得できる。
(きっと、いろいろ言われたはずだから)
近所の人たちにあれこれ詮索されて、親切ごかして同情という名の優越感をにじみだされたら、だれも自分を知らない遠い場所へ行きたいと望むのも無理はない。
(いまの私みたいに)
自分よりもずっとつらかっただろうなと想像しながら、頼子はかつての多美子に親近感を抱いた。
ちっとも内定が取れなくて、がんばって入社した会社に頼子はなじめなかった。仕事ができなかったわけではない。コミュニケーションも取ろうと、がんばってきた。けれど先輩事務員たちが共有している、強固な仲間意識の中に入っていけなかった。
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