1.田舎に住んでる王子様

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 壊れる前に、母に助けられたのだとわかった頼子は、母に感謝を述べて、これからどうしようと不安を告げた。  やっと内定をもらえた会社なのに、一年も経たずに辞めてしまった。そんな人間を、雇ってくれる会社があるだろうか。  母親はニッコリ笑って、とりあえず田舎に行って、のんびり働いていらっしゃいと答えた。資格がなくてもできる、人手の足りない職場があるのと言った母親の明るい顔に、頼子は幼子みたいにコックリとうなずいて了承した。  そしていま、ここにいる。 「あの、おばさん」 「なあに」 「仕事って、なんですか」 「あらっ、聞いていないの?」  きょとんとした多美子の声に「ただいま」と男の声が重なった。 「おかえりなさい」  立ち上がった多美子がガラス障子の向こうに行く。勝手口から入ってきたのは、多美子の息子、弘毅だった。泥のついた長靴姿の弘毅に、頼子の心がドキリと跳ねる。 「いま、頼子ちゃんとお茶をしていたところよ。弘毅もクッキー食べる?」 「ん」  短く答えて顔を上げた弘毅の視線と、頼子の視線がぶつかった。ギュッと頼子の心臓が絞られる。ときめく頼子に、弘毅はなつかし気に目を細めると、長靴を脱いで台所に入った。 「入り口で会ったけど、ちゃんとあいさつできなかったね。ひさしぶり、頼子ちゃん」 「あっ、はい」     
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