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実家から数メートル先の駐車場に車が停車した
二人分の上着を掴み、素早く羽織った貴文さんが助手席のドアを開けて、俺の肩にコートをかけてから手を差し出し
「ゆっくりだ。絶対に急ぐな」
足裏を地面につける速度に注文をつけてくる
「あの、足を下ろすくらいは普通に・・・・・・」
う、怖い
圧の強い眼で睨むのは止めて
「いいか瞭、お前の透き通る肌は冷たい風に吹かれたせいで透明さを増し、頬を朱に染め、瞳を潤ませた様は童話の世界の姫も負けを認めて逃げ出す美しさだ。万が一にでもふらついてみろ、自分こそが騎士に相応しいと野郎どもが名乗り出てくるだろう。蹴散らす手間が面倒だ、嫌なら抱き上げるぞ」
これって・・・・・・
俺の反応を引き起こした貴文さんが、貴文さんに怒っているようなもの、だよな
寒さより、肝の縮む目つきで血の気が引いた自覚はある。でもすぐ、切実な響きをもつ低い声に聞き惚れていたことに気づいて頬が熱くなったし、貴文さんを好きすぎな自分のおめでたさと、人生で最大の、そして最良の伴侶を得た幸せを噛みしめて瞳が潤んだのだから
「・・・・・・はい」
嬉しいかも
緩みきった頬を隠すように俯き、差し伸べられていた大きくて力強い手に手を乗せ、時間をかけて足を下ろし、その倍の時間をかけて立ち上がった
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