弟の結婚

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「いや、待てよ?」 今から誘惑しようというのに、隙なく着込んでどうする。洗面台の前に立ち、襟元を左右同時に広げると 「あああ、変」 胸元がたるんでしまった 下前の襟元をおさえ下に引き、上前も同じようにしてみたけど、もっさりしたシワが直らない。これはもう 「着付けし直すしかない」 何やってんだろ、俺 解いた帯がシュルシュルと音をたて、衣にまとわりつくように滑り落ちて足元で丸くなる。腰紐も解き、動きやすいよう上前と下前の端を持ち広げ、帯の輪から抜けでるため、足をあげようとして 「瞭。脱衣場で時間がかかってるようだがどうし・・・・・・」 固まった こんな格好悪い姿を見せたかったわけじゃないのに。我慢しても、じわっと涙が滲んでしまう。着付けをやり直すつもりだったことは、一目瞭然だのに、脱衣場の扉を勢い良く開けた貴文さんは何も言わないし、扉を閉めようともしない もしかしたら、心配してくれてるのかも 着付けもできないくらい、具合が悪いのかって、そう思われても仕方ない状況だし。何か言わないと、貴文さんを安心させる気の利いた一言を 「湯上がりだからか、朱に染まる白い肌は眩しいほどに美しく輝き、匂い立つ艶やかさを放つ」 な、なななにを言って パッと俯けていた顔をあげ、獰猛な光を宿す欲に濡れた瞳を目の当たりにしてカッと、全身が火照る。そんな言い方じゃなかった、穏やかな温もりのある・・・・・・
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