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「俺の欲望を静めてくれるなら」
珍しい。貴重。貴文さんが目を見開いてる
じーっと、じーっと、じーっと見つめてたら、急激に眉間にシワが寄り、細められた眼光は鋭く俺を射抜き、噛み締めた奥歯からギリギリ音が響きだす
「男を無自覚に煽るんじゃねえ」
うう、怖い
地の底から響くかのような声で怒らなくても。怖すぎて、はい、頷いてしまいそうになる。だけど、頷きたくない
「好きだから、求めるのは当然でしょう?」
「分かってねぇなお前は」
光る刃のような瞳に見据えられ、俺の強気はもう限界。言い返すことも、目を見返すことも出来ず、目を閉じて、涙を見られないよう、目蓋の上に腕を乗せた
「今夜で人生が終わるわけじゃないぞ。体力の落ちた身体に負担をかける行為をいま、急いてするより大切なことがある。楽しげに料理する後ろ姿、笑いながら髪を梳く仕草、記念日の贈り物を考える楽しそうな瞭を俺は、守りたい」
唇が震える。胸も、手も、身体もぜんぶ
貴文さんがどれだけの想いで、どれほどの愛情で、欲望を押さえ込んでいたのかと思うと傲慢に、求めてるだのと言い返したことが申し訳なくて
首の下に腕が入り込み、浮き上がった身体を
「瞭頼む、一人で泣くな」
強く、抱き締められる
「悪かった、言い過ぎた、許してくれ」
悪くないのに、貴文さんはぜんぜん、悪くない
ただ俺が弱いだけ。病気ばかりで迷惑をかける情けなさや、身の回りの世話も出来ない切なさに怯えて、せめて欲望を受け止めたいと。俺には、それしか出来ないと思ってたから
貴文さんの胸に顔を埋め、しゃくりあげ泣く。俺が泣けば泣くほど貴文さんの腕の力は、強くなった
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