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「いえ、そうではなくて」
何だったかな?
ドキドキと高鳴る胸に手をあて、瞬きも忘れぽーっと端正な顔に見惚れた俺の耳に、微かに聞こえた振動音は・・・・・・
「あ! 電話、電話が鳴ってます」
「ああ」
振動を続けるスマホに貴文さんが手を伸ばし、枕の上にポンと放る
え、いいんですか?
受話器から響いた荒く短い呼吸音に一瞬『変質者』の文字が脳裏に浮かびかけたけど
「よう、早いな」
貴文さんの気さくな語り口から考えれば、相手は信頼のおける人物だと思った。言葉を告げても、返事はない。それでも貴文さんはスマホに穏やかな眼差しを向け、通話を切ろうとしない
何か、胸がモヤモヤする
それにしても、受話器から聞こえる音は何だろう。しつこく着信音を鳴らしてきたにも関わらず、通話が繋がっても放置。しかも、耳にうるさいほどの雑音を鳴らす強心臓を持つ人間なんて。そこまで考えてハッとした。もしかして
「・・・・・・・・・翔?」
首を傾げ、貴文さんを見た
げっ
怒ってる。さっきまで、機嫌よくスマホを眺めていたのに。貴文さんの眇めた眼差しに宿る、肝が縮みそうな怒りの理由が分からなくて、涙ぐんでしまう
『どうしたよ瞭、兄貴は? 傍にいねぇの?』
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