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やっぱり翔だ
電話の相手が分かったら、雑音の検討もつく。あれは、吹き抜ける風の音。風を切り走る翔の足は異常に速くて、それを知った陸上部の人達は
うっぜーなテメェら、黙って聞いてりゃしつこく通ってきやがって
訪ねて来たその日に逃げ帰った
翔が早朝に走るようになったのは、声をかけられるのが煩わしいから。言葉にならないモヤモヤが胸に渦巻く。仲が良いのは知ってたけど、朝はゆっくりしたい貴文さんと、邪魔されることなく走りたい翔は互いの、踏み込まれたくない領域を許し合ってる
さっき、急に怒ったのは・・・・・・翔との電話を、俺が邪魔したから?
「いるぞ、ここに」
あ・・・・・・
目尻に溜まった涙が零れる寸前、肌に寄せられた唇。それは涙を吸ってすぐ、離れてしまった
『知ってる。わざと置いたとしても、兄貴のスマホを勝手に触る発想瞭にねぇし』
「チッ、お前に言われるまでもねぇ」
寂しい、貴文さんの温もりが恋しくて
『兄貴って、瞭が絡むと短気だよな』
「当然だろう」
彼の腕を胸にぎゅっと抱く
身を微かに震わせた貴文さんの顔は見れない。だって、怒ってるかもしれない。翔との電話を邪魔してるから
『だったら隠しとけ。瞭が姿を現せば、N社ビル全体でザワつくだけだ』
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