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実家の前のなだらかな坂道を風に吹かれ、くるくる回りながら転がりゆく落ち葉は駆け出す小さな子どものよう。ちょっぴり覚束ない足取りで、でも楽しそうで胸がほっこり温かくなる。父さんが好きな花でいっぱいの庭の空気を
「いい香り・・・」
すーっと胸に吸い込めば
「そうだな」
俺の隣で貴文さんが微笑んでくれた
休日の父さんは庭の手入れを欠かさない。たぶん今日も、手入れはしていたのだと思う
父さんの部屋であり、昔、母さんが養生していた仏間に続く縁側に腰掛け、父さんは空を見上げていた。見ているのは雲の流れか、それとも・・・・・・、22年前に還らぬ人となった母さんの面影だろうか
あ、泣きそう
考えたくない、想像もしたくない、好きな人のいない世界なんて。日が沈むように胸に不安が広がっていく。確かな温もりが欲しくてぎゅっ、貴文さんの手を握れば
――愛してる
低い囁きを俺の耳に吹き込み、柔らかく、けど力強く手を握り返してくれた
はい、俺も、愛してます
傾きかけた太陽が天に戻ったよう。不安はもう、どこにもなくてあるのは愛しさだけ。そっと分厚い肩に唇を寄せ、ピクン、繋いだ手を震わせた貴文さんを見上げたら、彼も父さんのように空を仰いでいた
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