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家と実家に鉄瓶がある。小さいのに重いコレは
『貧血にいいそうだ』
貴文さんが買ってくれたもの
強めの弱火にかけた鉄瓶は湯が沸くまでに時間かかる。仏壇に手を合わようかな、貴文さんの広い背中を見れるし、昼の今なら部屋も明るいし
「・・・・・・ヘタレすぎ、俺」
母さんを父さんは心から愛していた。だから、母さんが旅立ったばかりの頃、父さんは決められた時間に定まったことをするだけの、人形のようになったのも無理はないのだと貴文さんに出会った今なら分かるけど、あの頃はただ寂しくて
『見て、父さん』
荒れていく庭を手入れした
水をやって、枯れた花の代わりに可愛い草花を植えるくらいしかできなかったけど。花々を愛する父さんに戻ってくれるかな、期待を胸に誘っても父さんは庭を見ないし、仏間へ入ろうともしない
しょんぼり、俯く俺の脇を駆けたのは弟の翔
『見ろってんだろ、ボケッ』
ドシンっ
父さんに体当たりしてゴロンゴロン、絡み合うように転がり仏間へ押し込んだ翔の暴挙をオタオタしながらも手を出せない俺の前で、素早く起き上がり、転んだままの父さんのお尻を足を振り切って、5才児と思えない強烈さで蹴り上げたときには、寂しさどころではない
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