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翔を止めなければ!
足を一歩踏み出し、翔の背中へ伸ばした手を
『・・・・・・っ、母さん』
え、どこに?
引っ込め、身を縮め、きょろきょろする俺の手を翔が握ったその時、縁側の窓から差し込んだ月明かりへ腕を伸ばし、涙に濡れた瞳を輝かせて、さも人がいるかのように空間を作り、抱きしめた父さんの行動は忘れられない
夢のように素敵な光景だった。目に見えない存在が怖くて泣いたけど、心はときめいた
「?」
仏間へ続く襖に手をかけていた俺の耳が、ぼそぼそとした聞こえるかどうかの低く、艶のある声を拾い上げる
「少し、悩んでまして」
貴文さんが悩み!?
「ほう? 役に立てるか自信はないが、聞くよ」
あげそうになった声を口を手で覆うことで抑えた
貴文さんは勘の鋭い人だ
なのに、俺の気配に気付けないほどの悩みを抱えていて、その悩みを聞けるのは俺じゃない現実を見せつけられて辛い。泣くな、泣いたら貴文さんは俺に気付く。気を使わせてしまう前にここを、離れないと
「瞭のことなのです」
えっ?
足から力が抜けて居間の畳にへたり込んだ
聞いたらいけない。貴文さんが俺に言えないことは、知らないままでいたほうがいい。分かってるのに手も足も吐く息までも震えて、動けない
「瞭か。最近、あの子の調子はどうだ?」
「体調は日に日によくなってきています。ただ、それとは別に気がかりなことがありまして、失礼を承知で父さんにお尋ねしたい」
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