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しっかりしないと。貴文さんを不安にさせないように
胸の底から湧き上がる熱に涙が零れそうになったけど、顔を洗っても、涙の痕跡に気づく人だから、瞬きを繰り返してせき止めた
「お茶の用意ができました」
盗み聞きがバレないよう、素知らぬ顔を作ってお盆に乗せたお茶を運ぶ俺に、眉間に幾重ものシワを寄せ仏間へ上がった貴文さんが近づいてくる
･･････逃げてもいいですか？
引きつりかけた頬を必死に緩める俺の手から、お盆が消えた
「俺を呼べ。重い物を運ぼうとするな」
いえ、ぜんぜん軽いです
「あの、持てますよ？」
ピキーン、空気が凍てつく眼差しを伴侶に向けないでくれませんか、怖いから
「何を言ってる。無理に運んでバランスを崩しちまったら、瞭の柔肌に傷がつくだけじゃすまねぇぞ」
ふいに、指の背で目元を拭われてビックリした
目を見開く俺を映す黒い瞳に一瞬、バツが悪そうな苦みが浮かんで、でも、俺を責めることも、言い訳を口にすることもしない。ただじっと、黒く澄んだ瞳に俺を映すだけ
「はい、お願いします」
答えた瞬間の貴文さんの笑みは泣きたくなるくらい優しくて、ギュッと抱きしめたくなるくらい嬉しそうだった
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