電話

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その後何事もなく家路についた僕は、 今日一日の出来事を考えていた。 ふと窓の外を見ると、外はすでに薄暗く 街頭がまばらにつき始めていた。 彼女は無事家に帰れただろうか。 僕は携帯を見つめ彼女と携番を交換した時の事を 思い出す。 彼女は終始、上きげんで僕に言った。 「どうせなら合言葉を決めない。 私に電話する時は始めにお姉ちゃんて言う。 それが合言葉よ」 「じゃあそっちがかけたときも言うの?」 「私は言わないよ。 合言葉を言うのは君だけ」 「理不尽だね」 「女心は複雑なのよ」 そう言った後、夕焼けに染まった曇り空を見上げた彼女の横顔が鮮明に脳裏に焼き付いていた。 刹那的(せつなてき)(うれ)いを帯びた横顔が。 そんな事を考えながら携帯を見つめていると、 唐突に携帯の着信が鳴り響いた。 ディスプレーには登録したばかりの彼女の名前が。 僕は慌ててその着信に出る。 「もしもし」 電話の向こうで逡巡(しゅんじゅん)するような嘆息(たんそく)が聞こえた。 「・・・」 携帯の向こうからバイクの走る音が響いてきた。 刹那的な残響が耳に残る。 まさかまだ外にいるのか? ある種の不安が(よぎ)る。 「友希(ともき)?」 迷うような期待するような、 どこか寂しげな声が聞こえた。 いや一希(かずき)だけど・・・ 「霧島(きりしま)凛火(りんか)さん?」 携帯から取り(つくろ)う様に慌てた男性の声がした。 「すみません。 携帯を拾ったもので、 取り合えずここにある番号に電話してみました」 予想外の答えにどう反応したらいいか頭が 追い付かない。 「あの、夕凪(ゆうなぎ)公園で携帯を拾ったのですが、 この携帯、引き取りに来て(もら)えませんか」 「はいわかりました。 すぐに行きます。 学生服で行くんで、すぐにわかると思います」 「お待ちしております」 そう言って携帯は切れた。 あらゆる可能性が頭を(よぎ)る。 ただ携帯を落としただけなのか? 彼女が何か事件に巻き込まれたんじゃないか。 あるいはこの連絡をして来た人物自身が首謀者で、 彼女は拘束されてるんじゃないか。 それに気になる事もあった。 彼女と別れた交差点から夕凪公園までは、 結構な距離がある。 (むか)えを呼ぶと言ってたが歩いて帰ったのだろうか? 迎えを呼ぶつもりが連絡が取れなかったとか。 とにかく今は行って確かめるしかない。
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