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僕が夕凪公園に到着した時には既に深夜で、
公園の中は街灯もまばらで薄暗く、
人の気配はなかった。
僕は公園の中をしばらく人影を探しさ迷っていた。
公園のベンチらしき所にポツリと立つ街灯に、
夏の虫達が群がっていた。
そのベンチに携帯らしき何かが置かれているのに
気づき近付いて行くと、唐突に遊具の影から
人が飛び出した。
フードを深く被った何者かが僕に話しかける。
「白木くんだね。
携帯を拾った者だけど」
突然の事に唖然とする僕をよそに、
彼はおもむろにポケットからそれを取り出し
僕に差し出しながら近付いて来た。
僕は咄嗟にそれを受け取ろうと手を伸ばすと、
彼は耳元で囁いた。
「霧島凛火に係わるな」
その言葉に気をとられ、一瞬僕が掴んだそれが
携帯で無いのに気づかなかった。
次の瞬間、バシュッと言う乾いた音と共に、
手の中が燃えるようにフラッシュして、
走馬灯のように辺りの景色がぐるぐると回った。
全身がひきつり、
かたくスタンガンを握りしめたまま僕はその場に
崩れ落ちた。
「離せ!?
ちっ」
全ての感覚が麻痺していたが、
僕の体は僕の意思とは関係なく、
ひきつけを起こし握りしめたそれを離さなかった。
「誰かいるんですか?」
遠くで聞こえる人の声。
フードの男は何かをつぶやき走り去る。
辺りの喧騒が段々と遠ざかり聞こえなくなって
いく。
全ての感覚が虚無の中に落ちていった。
闇の中で男の声がリピートしていた。
─霧島凛火に係わるな─
僕の意識は完全に闇の中に落ちていった。
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