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「すみません。
僕はもう行きます」
そう言って立ち上がった僕を、
老人はもの惜しそうに見つめていた。
・・・
「すみません。
あのこれお礼です。
ジュースでも飲んで下さい」
そう言って僕は財布からコインを出し、
老人に200円を握らせる。
老人は途端に満面になって饒舌になった。
「ありがとう。
気を使わせたね。
そうだ!
その探してる彼女かどうかはわからないけど、
フードを被った子が、
向こうに走って行くのを見たよ」
そう言って老人は公園の奥を指差す。
「顔はわからなかったけど髪は長かったよ。
まだこの辺りにいるかも知れないね」
フードの男!?
いや老人は女性かも知れないと言っている。
人違いか?
「あのその人?
本当に女性でしたか?」
「いや暗くてよくわからなかったけど、
後ろ姿で髪が長かったから、
そうじゃないかと思ったんだけど・・・
違ったのかな?」
「ありがとうございます」
僕はそれだけ言うと老人が指した方向に駆け出した。
公園の奥は雑木林になっており、
隠れそうな場所はたくさんあった。
僕は携帯で彼女の番号に電話をかけ、
携帯を遠ざけて着信音が林の中から聞こえてこないかそば耳をたてながら、その雑木林を進んだ。
夜の公園は思った以上に視界がきかず、
慎重に足元を確かめながら歩いていると、
唐突に誰かが背後から僕を追い越し駆けて行った。
まったく気配を感じなかった僕は驚き、
固まってその背を見つめた。
男の背はジョギングしてると言うよりは何かを
追いかけている感じの緊迫感があった。
どことなく見覚えのある学生服の少年。
その手に握られた携帯のストラップが揺れて光る。
そのストラップには見覚えがあった。
あれは凛火のつがいのイルカのストラップ。
公園の角を曲がり見えなくなった少年を追いかけ僕は駆け出した。
すぐに曲がり角に来た僕は、
その先で少年の姿が消えているのに唖然とした。
長い一本道で姿をくらますとすれば脇の雑木林しかない。
僕は耳をすませ辺りの音を慎重に聞き分けた。
風でなびく木の葉が寂しげに夜泣きしていた。
その夜気の中に埋没するように、
人の話す声が聞こえてきた。
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