0の境界線

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あの影が僕だとするなら向かう場所は教室だろう。 そう当たりをつけ僕は僕の影を追いかけ続けた。 教室の前で学生が立ち止まっていた。 ようやく僕は僕に追い付いたようだ。 ゆっくりと近づく僕に、 学生はまったく気づいていないようだった。 その横顔は確かに僕に似ている。 とは言え、自分の横顔を見たことはないのだから 確信はもてないが。 開かれた教室のドアの前でドペルゲンガーの僕は、 教室の中の凛火(りんか)と話していた。 まるで僕自身がドペルゲンガーになったような 錯覚(さっかく)さえ覚える。 二人は近づく僕の存在に気づいていないようだった 。 そのまま二人は教室の中に消えて行った。 僕は理解が追い付かず、 しばし(ほう)けているだけだった。 人間理解の枠を超えると思考は停止するようだ。 僕は再び気を取り戻し可能性について考察(こうさつ)する。 僕がもう一人いるわけを。 だが思考は暗黒の中でさ迷うばかりだった。 考えても仕方ないという結論にいたった僕は、 勇気を出して教室のドアを開けた。 そしてそこに見たのは教室で談笑する僕と凛火。 確かに僕自身がいた。 そう認識した瞬間世界が回る。 走馬灯(そうまとう)のように回転する世界の中、 薄れ行く意識の中で、僕は自身の腕を見ると まるで蒸気のように霧散(むさん)し消えかけていた。 蜃気楼(しんきろう)のように霧散してゆく自身の体。 そして僕の意識は完全な無音の支配する闇に 飲み込まれていった。
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