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中学にあがってすぐの頃、廊下で野本とすれちがったとき、野本は私の顔を見て「よう。高柳」と言って笑った。
小学校で遊ばなくなってから、なんとなく気まずかった私は、野本が気さくに話しかけてくれて本当はとても嬉しかった。
でも恥ずかしくて、ついぶっきらぼうに「よう」とこちらも返してしまった。
それからも野本とは顔を合わせれば話をした。本当はもっともっと話したかった。
私は昔からずっと野本のそばにいたかったのだ。そんなことに今になって気付くなんて。
野本はじっと私の目を見ていた。
私は断られるかな、と思った。一人で行きたいからと言って断られるかもしれない。
すると野本はふっと優しく笑い、手を差しだした。
「じゃ行くか」
軽く、とても死に場所を探しに行くとは思えない気楽な言い方だった。
野本と初めて手をつないだ。思っていた以上に大きな、男の人の手だった。
二人は歩き出した。
行く先は決まっていない。二人で探す、最期の場所。
夕焼け空の下、二人手をつないで歩く。
少し前を歩く野本の背を見て、私は心臓が大きく鳴るのを感じた。
もうすぐ隕石が落ちてくるという非常事態が私の気持ちをこんな風にするのだろうか。
たぶん、違う。
この胸の高鳴りは、たぶんもっと違う言葉で言い現わす。
それを彼に伝える日は、来ないだろう。
けれど最期の時を彼の隣で迎えられたら、それだけで私は幸せ。
それは、確かだ。
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