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「どうしたの?それ」
それは旅行鞄だった。数日分はありそうな荷物だ。
「これから旅にでようと思ってさ」
「旅?」
「お前さ、うちで昔飼ってた、ミケって覚えてる?」
ミケ。その名前に私は一気に子供の頃の記憶がよみがえった。
ミケは野本が小学生のときに飼っていた猫だ。
小さな三毛猫で野本はとてもかわいがっていた。
「うん。覚えてる」
「ミケがさ、あいつ死ぬ間際に姿くらまして、どこかに行っちまったじゃん。俺、あのときのこと思い出してさ」
猫は死ぬ直前に姿を消す。
自分の死に場所を求めて飼い主の元を去るのだと、ミケがいなくなったときに私も知った。
「ミケがいなくなったとき、すごく悲しかったけど。今なら俺もミケの行動が分かるなって思って」
「それってつまり、野本も死に場所を探すってこと?」
「まあ、そう言うと大げさだけどな」
野本はそう言って苦笑いを浮かべた。
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