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Hold The Line
八月半ばの夏真っ盛り。三十度超えの熱帯夜で睡魔は溶けてしまった。この燃えるような暑さに身体も思考も焼かれていく。
洗濯したばかりのシーツから香る太陽の匂いが、いよいよ鬱陶しく思えてきた午前二時。いつものように一人ベッドの上で眠れぬ夜を過ごしていた。
思い返せば、暮らし始めた当初は同じベッドで青子と寝ていた。暑い夏でも溶け合うように二人で抱きしめ合って眠った夜は、どんなお菓子よりも甘い時間。でも今は違う。
一体どこですれ違った?どこで道を間違えた?
夜になると頭の中が疑問で埋め尽くされた。澱んだ水のように、心の中に汚い泡が次々と浮かび上がってくる。
交点の見えない暗い平行線。辿った足跡はとうに見失っていた。かつて側にいたはずの君の姿も見えない。独り――、果てのない道を戻ることもできず無心で進んで行く。
……今の僕には、それしかできない。
泡立った心に苛立ちながら、携帯の時計を見ると、午前三時と表示されていた。
今夜もまた、吐き気がするほど苦い時間を過ごすのか。もう、こんなのうんざりだ。たまには砂糖が欲しい。神様、優しさを求めることさえ罪なのですか?
――コンコン。
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