ユキとシオン

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 寂しくて声が震える。結構寂しがり屋だって自覚はあるけどさ。俺、こんなに泣き虫だったか?  日中の、まだ人通りが多い通りで俺の口から飛び出した「人殺し」の言葉に、行き交う人達が足を止めて振り返る。  突き刺さる視線にハッと我に返った。逃げるように背を向け、早足で歩きだす。すぐにフワッと、甘い匂いが香った。 「一瞬意識が飛ぶくらい嬉しいことを言ってくれるねぇ。心配しなくても俺は殺す以外の方法で、直也を終わらせるよう決めたよ。あの子はきっとそれを待ってる」  明るい口調でそう言いながら、「ありがとう」と頭を撫でる先生。  なんだよ、俺の勘違いかよ。けど、どうやって?訊ねてみても先生は「大人の力を使うんだよ」と笑みを浮かべるばかり。何なんだよ。  先生は何らかの“大人の力”があって、不屈の親を持つ帝王の直也でも終わらせることができるって確信しているんだな。  これ以上聞いても教えてくれねぇな。諦めて、先生の服の袖をつまんでみる。 「そういえばさぁ。前に俺が彼女とのデートの帰りに道に迷っていた時、道案内してくれた不思議な猫がいたって話をしたでしょ?あれって、もしかしなくてもシオン?」  人通りが少ない路地に入って、先生があの日のことを言いだす。俺は、ニヤリと笑ってやった。 「うわ、悪い顔」 「白猫に振り回されるオッサン、面白かったぜ?でもそれの何倍も疲れた!次の日、全身筋肉痛だったんだからな!」  ガラ空きの腹に軽く拳を打ち込んでやり、じゃれるように腕をゆする。俺の自転車が蛇行運転。  仕返しにワシャワシャッと頭をメチャクチャに撫でられた。子供かっ!い、嫌じゃねぇけどなっ!
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