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あの時の俺があまりにも先生の言葉を理解していたから、それに“ユキ”って名前に反応してしまったから。先生はあの時から“白猫のユキ”が擬人化種なんじゃないかって疑っていたんだとさ。
自分が擬人化種だから、俺の態度に何となくそう思って。だから確かめるために俺に家の場所を教えた。
その結果、俺はまんまとコンビニまで案内させられた。先生は確信して、次に猫カフェで会ったら出待ちしようと企んでいたらしい。俺はアイドルか?
「俺の家も教えたし家族の話もした。シオンは?1人暮らしだったら今度、遊びに行きたい――」
アホなことを言いだした先生が笑いながら俺の顔を覗き込んできたその時、尻でケータイが鳴った。ビクッ!と震える。
「……あ、病院か。先生、ちょっとごめん。はい、もしもし……」
タイミング的に直也かと思った。俺が擬人化種だと知ったあいつなら逆らえない俺を呼び出して、また輪姦するなり鎖でつなぐだろうな。
それともヤバい方の、非公式の研究員に俺を売るか?貴重な擬人化種を売れば、生活に一生苦しまないくらいの大金が手に入るって言われてんだ。
先生も電話の相手が直也だと思ったらしい。笑顔が消え、表情が怖くなっていたが俺が「病院」と呟くとキョトン顔。
またばっちゃんが呼んでんのか?ばっちゃん、あんまり看護師さん達を困らせんなよ。
止まってうなずいてくれた先生から少し離れて、ユキ・シオンを名乗る。人間としてはフルネームで“ユキ・シオン”と名乗っているって、そういえば先生に言ってなかったな。
ばっちゃんのことはそのうち先生にも話そうと思っている。だから別に、聞かれねぇように離れなくてもいいんだけどな。
そう思って先生の方を向いた俺の踏み出された足が、ピタリと止まった。
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