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――突然、シオンがユキになって消えた。
ただならぬ雰囲気に手を伸ばすのも声をかけるのも間に合わないくらい、次の瞬間にはシオンは屋根の上。名前を呼んで叫んでも、あの子は振り向くことなく行ってしまった。
一体、何があった?シオンがあんなにも豹変するほどの電話って?
俺はあの子のプライベートも生い立ちも深くは知らない。せめて、行き先がわかれば。あの子の自転車のハンドルを握り締めて考える。
電話の相手は「病院」だって言っていたし。シオンが通院している?いや、擬人化種だからそれはできないはず。なら、身内か何か?
だめだ、考えられない。気が動転して落ち着けず、俺はケータイを取り出した。
…………あの店長なら。俺達と同じ擬人化種なんだし、何かとシオンが心のよりどころにしているんだと思う。何か知っているか?
猫カフェを検索して、電話をかける。忙しくはないらしく、すぐにつながった。
「お電話ありがとうございます。よりどりみどりのニャンコ達があなたをお待ちしております、猫カフェ――」
「店長さんか!?俺だ、シオンが急に――」
「ぅえぇっ!?ま、待って待って、かけ直すっ」
ブツンッ。待てない! 猫の鳴き声と、女性中心の声がガヤガヤうるさい。その中に聞き覚えのある、元彼女のお嬢ちゃんの声が聞こえた気がした。
やっぱり来ているのかぁ。複雑な気分だけれど、今はシオンが何よりも大事なんだ。俺はケータイを握り締めて待つ。
路上で足踏みをしていると電話が鳴った。バックヤードに移動したらしい、ゼェハァ息を切らす店長さんに容赦なくシオンのことを伝える。
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