319人が本棚に入れています
本棚に追加
/811ページ
「…………えーっと。つまり、病院からの電話があってすぐに様子が急変して、ユキちゃんが血相を変えて走り出しちゃったってことね」
悪い。俺があまりにも早口で、しかも要点をかいつまんで話したから理解に時間がかかったな。
俺達はまだ出会って数日だし、シオンのこともまだ何も知らないんだと話す。
すると彼女はしばらく黙り込んだのち、「今どこにいるんですか?」と聞く。周りを見渡し、目印になるものを伝えると「そこからじゃ遠いわね。すぐに行くから、待っててください」と言って通話終了。
カップ麺が出来上がるよりも早く、彼女は爆音を轟かせながらやってきた。黄色のスポーツカー。もちろん違法カスタマイズ済み。
近くの郵便局にシオンの自転車を預け、助手席に乗り込むとドアを閉めるよりも早く急発進。速度メーターが死んでるんですけど。
「あなたがあたし達と同じ擬人化種だから。それに、あの子を大切に想ってくれているから信じて言うけど。あの子は人間のおばあさんに拾われて、ここまで育ててもらったのよ。だからその恩返しのためにバイトをしてお金を集めて……」
ジャガー店長様は素晴らしいハンドルさばきで、唸りをあげる猛獣を操る。革の手袋をはめて運転とか、もしかして名の知れたレディース様だったり?
前後左右に激しく体を揺さぶられながら、信号に捕まって「チッ!」と急ブレーキを踏む彼女に怯えながら。ジャガーが見え隠れする彼女の話に耳を傾ける。
野良猫だったのか。俺とは全然違う。拾い育ててくれたおばあさんもすごい人だなぁ。ユキが人間に変身してしまって擬人化種だってわかっても、それでも愛情を注いでくれる。
身寄りのない、孤独だったシオンにとっておばあさんは命を懸けてでも守りたい大切な家族。
最初のコメントを投稿しよう!