ユキとシオン

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 きっとそのおばあさんに何かがあったんだろう。そりゃあ、俺のことなんか置いて飛んでいくわな。俺とおばあさんとじゃあ、シオンと一緒にいた時間が違う。  ズキッと心が痛んだ。なんだよ俺、おばあさんに嫉妬しているのか?俺があの子の立場だったら同じことをしているだろうに。  病院の名前を聞いて、俺がシオンを探していた時に見つけた病院だと気付く。シオンの匂いが留まっていたあの病院。  たぶん、おばあさんに会うかどうか迷ったんだろうなぁ。悩んで悩んで、会わずにいることを選んだ。その様子が俺には見える。  シオンは自分のことも直也のことも、自分の中に留めておくことを決めた。家族も同然のおばあさんの負担にならないように、隠すんだと。  誰の迷惑にもならないように、平然を装う。自分のすべてを犠牲にして。 「ねぇ。あの子、ヤバい商売してるんでしょ?最近の様子がおかしいからちょっと調べたの。あなたならもう知ってると思うけど」  店長さんは不安に揺れるオレンジ色の目を前に向けたまま、グッとハンドルを握り締める。  疲れきった様子に、目の下にできた濃いクマ。それに服の隙間から垣間見える痣や傷、赤い痕。さすがに店長さんでも気づくよなぁ。  シオン、お前さぁ。お前が思っている以上に大事にされてるよ。みんな、お前をちゃんと見てくれているんだよ。人間のシオンとしても、白猫のユキとしても、擬人化種のユキ・シオンとしても。 「約束して。絶対にあの子の手を離さないって、幸せにするって。おばあさんを亡くしたらあの子、ユキ・シオンじゃなくなっちゃうから」  俺は深くうなずいた。
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