ユキとシオン

15/15
319人が本棚に入れています
本棚に追加
/811ページ
 離さないよ、絶対。物理的に離れてしまっても、必ずまた探し出してその手をつかむ。何度でも。まだ心が通い合ったわけではないけれど、きっと。  俺は店長さんと連絡先を交換。「ユキ・シオンをよろしくお願いします」と、背中を押されて車を降りた。  間違いなくここにいる。あの子の匂いが導いてくれる。受付けでシオンのことを尋ねると関係を聞かれ、家族だと答える。  怪しむような目で見られたけど、気にしない。おばあさんの部屋があるフロアに行こうとして、呼び止められた。 「シオン君なら先ほど、病院を出て行きましたよ?おばあさんが亡くなられて、ご遺体にしがみついて泣き叫んでいましたし。今後のお話をしようとしたら激高して飛び出して、すみません」 「おばあさんが、亡くなった?」 「えぇ。あ、私、担当看護師です。シオン君はまだ成人前なので身寄りのないおばあさんのご遺体を引き取ることもできませんから、無縁仏としてお寺に……」 「ありがとうございます」  なるほど。おばあさんが亡くなったショックで悲しみに伏せている時にその話をされれば、怒って飛び出したくもなる。けれど、これが現実なんだよ。  シオンはおばあさんとの血のつながりがない。家族も同然だったとしても、法的におばあさんを引き取ることができないか。  俺は踵を返し病院を出る。匂いをたどって探すか。  スンッ……スンスンッ。しまった、雨だ。車に乗っている間に、ぶ厚い雲が立ち込めているなぁって思ったんだよ。  嗅覚を研ぎ澄ませてもあの子の匂いは感じられず、アスファルトが雨で濡れた鉄っぽい匂いが気管を通るだけ。  それでも、俺は絶対にシオンを探し出してみせる。自分を信じて足を踏み出し、ケータイを取り出した。
/811ページ

最初のコメントを投稿しよう!