冷たい体と熱い想い

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 ケータイを開いて現在地を確認。あぁ、ここならこの路地を抜けて少し歩けば家に帰れるな。  顔を流れる雨水を拭って、細くて暗い路地を歩く。ネコとはいえ、俺は人間生活が長いから水が苦手ではなくなった。  プールは嫌い、風呂は好き。でも顔が濡れるのは我慢ならなくて、くせで何度も顔を拭いながら歩き路地を抜ける。雨が上がった。 「やぁ。君、なかなか面白いことをしてるんだねぇ?こんな姿で街を歩き回って、有名人にでもなりたいのかい?」  違う。俺の体を打ちつけるはずの雨は、目の前に立つ男の手に握られた傘を滑り避けていく。顔を上げ、水色の瞳に映った男の顔が微笑んだ。  もう片方の手が持つケータイが、男の正体に怯えを隠せない俺に向けられるとカシャッ。向きを変え、撮った写メを俺に見せる。 「な、おや……っ!え……な、何これ、俺……っ!?」  不気味に笑う男は、今1番会いたくない直也。そして俺の目に飛び込んできたその写メは、俺の姿は、人間じゃなかった。  頭の上には白い耳が生え、腰からは白い尻尾が伸びている。擬人化種の、ユキ・シオン。  俺、ずっとこんな姿で歩いていたのか?だからすれ違う人達があんな反応をしていたんだ。俺の写メはすでにネット拡散され、望まずの有名人。  人間の姿の時の動物化は感情が高ぶると起こりやすい。こいつを前にして気を静められるとも思えねぇが、集中して…………あれ、戻らねぇ?
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