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この国で1番高い価値のある紙幣を数枚置いて、シオンの体を隠すように抱きしめる。財布の中まで雨水が入り込んで、紙幣は全体が色が変わってクタクタ。
口止め料も含まれている。これ以上話しかけてくるなという威圧もかけて、俺は目を閉じた。
電話をかけてもかけても切られて、番号を間違ったかと思ったよ。けれど3回目でやっとつながって、シオンは俺の声に驚いた様子だった。
まぁそりゃあそうだろうなぁ。だって俺は番号を知らないはずだもんなぁ?実は知ってるんだよ。
前にシオンが直也に輪姦されて家に保護した時。眠っている間にシオンのケータイを調べて番号を控えさせてもらった。犯罪だけれど、これがなかったら今頃こいつは……
震えるな。あの、異常なまでのシオンへの執着。やっぱり直也は歪みきっている。
シオンに執着しているのは俺も同じか。いや違う。直也と同じにするな。俺はちゃんと、清く正しくシオンに執着しているんだよ。
なんてな。人を殺しかけた俺が言えたことじゃない、か。
俺も、シオンのことを想いすぎて感情に呑み込まれていたんだし。あの時シオンが叫んでくれなかったら。確実に俺は、感情に任せてこの口を直也の血で汚していたんだろう。
電話越しに直也の声が聞こえ、直後にシオンの悲鳴。強制的に切られた通話。
そこから先の記憶が、正直俺にはない。気づいたらシオンの必死な叫び声が聞こえて、俺が本性剥き出しになっているのに初めて気が付いた。
動けない体。かすれた声。完膚なきまでに叩きのめされた、ボロボロの体。血まみれの体。また、理性がブッ飛びそうになった。
けれど俺は約束していたから思いとどまれた。直也を殺さない。大人の力を使って直也を終わらせると。
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