待ち望んでいた

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 ……なんか、所々ヤバい単語が聞こえた気がするんだが。ちょっと、釈放後の直也が心配になってきたぜ。  いつもの先生らしくねぇ、ずっとジメジメした顔をうつむかせているのにイラッとして。頬をつねってやろうと手を上げた時だった。  早すぎて茶色い残像しか見えなかったが、先生の口の中に勢いよく突っ込まれた。「んぐぅっ!?」と驚いて顔を上げた途端、もう1つ追加で押し込まれる。  あ、詰まらせた。いやいや、そりゃあさすがに、いなり寿司をいきなり2つ連続で突っ込まれたらそうなるって。  テーブルに手をついて身を乗り出して突っ込んだ犯人は、大爆笑。「最後の1個じゃ」と、俺の口にも突っ込んできやがった。 「さてと。そろそろ戻らないと、昼ご飯のウインダーゼリーのパックを咥えて待っている秘書を怒らせてしまうので。怖いんですよ。監禁されるんですよ」  指を舐め、お茶を飲み干してそう言った香さんは俺達がしゃべれないのを良いことにそのまま出て行った。  来た時と同じタイトスカートの40代の女に変化していたが、女の時はつけてなかったはずの黒縁眼鏡が残ってたぞ?  モグモグモグモグ。エンジンがかかって、モグモグモグモグ。音が遠ざかって聞こえなくなった頃にやっと、ゴックン。 「「…………」」  先生の顔色が悪いのはいなり寿司を詰まらせたから?それとも…… 「悪いやつじゃないんだ。長い時を生きすぎた、俺達のトップにいる方だから自由気ままでさぁ」 「確かに力のある、頼もしいお方だな。ただ、かなりヤバくて怖い人だって痛感したぜ……」  俺と先生は食器の片付けに取り掛かった。結局、香さんは200個近くあったいなり寿司の8割を食ったんだな。付け合わせのガリまで3皿分食ってる。  それでもスーツの下の腹は全くのペッタンコ。化かされているのか。キツネ、恐ろしや。
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