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気持ちいい。温かくていい匂いに包まれて、頬や体を擦りつけると喉がゴロゴロ鳴る。
両肩にしがみついて、目を閉じて。俺の匂いを擦りつけるようにスリスリ。白い耳はペタンと後ろに垂れ、尻尾はいつの間にか悠一の足に巻き付いているし。
俺、ばっちゃんにもこんな風に甘えたことなんてなかった。白猫の姿なら完全に腹を見せて、「撫でて」と体をくねらせているんだろうな。
猫カフェで仕事モードの時は、常連のお客さん相手にはよくやっていた。けどそれは仕事だから。
猫カフェのナンバーワン人気、白猫のユキとして媚び売っていただけの仕事。あの常連のおねぇさんにでさえ、俺は本心で喉が鳴ったことがない。可愛がってもらえるように、鳴らせていた。
俺は俺を使い分けていた。人間として生きる大学生のシオン、猫カフェでバイトをする白猫のユキ。それから、金のためだけに身も心も削るネコヒメ。そのどれもが”俺”なんだ。
今の俺って猫らしいな。なんて思ってみたり。自分でも笑える。俺は白猫なのか、人間なのか?いや違う、白猫の擬人化種のユキ・シオンなんだ。
「あ、やば……っ」
情けない声が聞こえた。俺の尻に当たっている部分が硬くなって熱も持ち始めたようだし、起ったのか?
真面目に真剣な話をしてんのに、だらしないやつだなと罵ってやろうと思っていたのに。けど実はちょっと狙っていたりもしてたんだが。
とにかく、おちょくってやろうと顔を上げたら…………赤いものが目に飛び込んできた。
「え……いたぁっ!!?赤っ!はぁ、何だよこれっ!?」
文字通り、赤いものが俺の右目に飛び込んできやがったんだ。目薬よろしく、俺の眼球に広がったそれは俺の目に映る景色を半分赤く染める。
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