初めての

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 ――手巻き寿司パーティーから数日後。俺はシオンを連れてとある場所に来ている。  足が重い。かなり重い。重すぎて動きたくない。でも、来てしまった。あいつの根城に。俺は年に2回、決められた日に来ているが。俺が来るのは別にいい。  問題はシオンだ。今日が初めてだし、俺がそばにいても何をされるかわかったもんじゃない。あぁ、胃まで痛くなってきたぞ。 「悠一、顔色が悪いけど大丈夫か?手土産も持ってきたし、心配しなくても大丈夫なんじゃない?ただの検診なんだし」  やっぱりシオンは優しいなぁ。俺を心配そうに見つめてくれるのは嬉しいんだけどさ。お前自身が心配されているってわかって?俺の心配なんてお前のことしかないから。  立ち止まって、頭をナデナデ。一瞬ムッと顔をしかめるものの、微笑んでやると頬を赤く染めて嬉しそうな表情に変わる。うん、可愛い。 「シオンは優しいんだよ。というか、甘すぎる。あいつの本当の怖さを知らないからそんな呑気なことが言えるんだ。卵焼きまで作って持ってくるとか、甘々すぎるんだよ」 「あぁ違う違う。卵焼きを作ってやったんだから、絶対に手を出すなよって意味だし。すぐには渡さない。チラつかせて、終わったらご褒美にあげるんだ」 「…………おう、黒い笑みだな。黒すぎて黒猫に見えるぞ」  今日はシオンの検診の日。香さんが創設した擬人化種の研究所で、ドクトルの手によっての検診を受ける。つまり、一時的にシオンをドクトルに預けるってこと。
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